皆さん、こんにちは!
160km/hの剛速球で三振の山を築く「パワーピッチャー」は、野球の華です。しかし、その対極に位置する、技術と頭脳で打者を支配する「技巧派ピッチャー」の世界も、また非常に奥深いもの。
そんな技巧派投手の最高の名誉とされる、極めて珍しい記録があります。それが「マダックス」です。
1. 「マダックス」の定義とは?
「マダックス」の定義は、以下の2つの条件を同時に満たすことです。
- 完封勝利(Complete Game Shutout)
- 1人の投手が、交代することなく9イニングを投げ抜き、相手チームに1点も与えずに勝利すること。
- 投球数が100球未満(Under 100 pitches)
- その9イニングを、わずか99球以下の投球数で終えること。
つまり、「100球にも満たない球数の少なさで、9回を一人で投げて無失点に抑える」という、究極の効率性を体現した快挙なのです。
2. 名前の由来:伝説の”精密機械” グレッグ・マダックス
この記録は、1990年代に4年連続でサイ・ヤング賞を受賞した伝説的な投手、グレッグ・マダックスに由来します。
彼は、決して剛速球投手ではありませんでした。しかし、まるで針の穴を通すかのような「精密機械」と評された圧倒的なコントロールと、打者の手元でわずかに動くボール(ツーシーム・ファストボール)を武器に、打者をいとも簡単に打ち取り続けました。
彼の真骨頂は、三振を奪うことではなく、打者に弱いゴロを打たせること。1球でアウトを取る「打たせて取るピッチング」を芸術の域にまで高め、キャリアで13回もの「100球未満の完封」を達成しました。その偉業を称え、いつしかこの記録は彼の名で呼ばれるようになったのです。
3. 「マダックス」のすごさと難しさ
マダックスを達成するためには、三振を奪うのとは全く違う技術が求められます。
- 抜群のコントロール: 狙ったコースに寸分の狂いなく投げ込める制球力で、常にカウントを有利に進める必要があります。
- ゴロを打たせる技術: 打者の手元で沈むボールを低めに集め、弱いゴロを打たせ、アウトの山を築きます。
- 打者の心理を読む頭脳: 相手打者の狙いを読み、最も嫌がるボールで早めに勝負を決めるクレバーさも不可欠です。
9イニングで27個のアウトを取る中で、1アウトあたりの平均投球数はわずか3.7球。これは、ほとんどの打者を3球以内で打ち取らなければ達成できない、驚異的な数字です。
4. 現代の「マダックス」の価値
現代のMLBでは、選手の健康管理のために投球数が厳しく制限され、完投自体が非常に稀になりました。そのため、「マダックス」の価値はますます高まっています。
それでも、時折この偉業を達成する投手が登場します。彼らは、現代においてもグレッグ・マダックスのような卓越した投球術を持つ、真のアーティストと言えるでしょう。
まとめ
「マダックス」は、野球が単なるパワー勝負ではなく、究極の技術と頭脳が支配するスポーツであることを教えてくれる、非常に味わい深い記録です。
次に野球を観戦する際は、奪三振の数だけでなく、ぜひ「球数」にも注目してみてください。少ない球数でテンポ良くイニングを終える投手のピッチングには、この「マダックス」の美学が宿っているかもしれませんよ。
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